相続放棄とは?


妻:あなた、今だから言えるけど、お父様の相続は本当に大変だったわね。よく頑張って借金を返せたなって思うわ。
夫:そうだな、皆にも苦労を掛けて申し訳なかったと反省しているよ。でも、おやじのお店、どうしてもつぶしたくなかったんだ。これで親孝行ができたかな。ありがとう。


■借金も相続財産です■

親が亡くなり、遺産を相続することになった時、不動産や預貯金などのプラスの財産に目が向きがちです。ところが、商売などをしていた場合、借り入れ金などマイナスの財産があることは珍しくありません。相続が発生したときはできるだけ早く、被相続人の全財産を調べ、そのうえで相続するのかしないのかを相続人全員で話し合うことが重要です。

相続には、単純承認、限定承認、相続放棄という3つの方法があります。相続人は3か月以内にどの方法を選択するかを決めなければなりません。

単純承認とは、被相続人の財産をすべて引き継ぐ方法です。プラスの財産もマイナスの財産もすべてを相続します。借金などのマイナスの財産がある場合も、各相続分に応じて負担することになります。

限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。プラスの財産で清算しきれない借金までは相続する必要はありません。プラスの財産とマイナスの財産、どちらが多いかわからない場合などに有効です。ただし、限定承認は相続人全員で裁判所に申し立てなければなりません。

相続放棄とは、プラスの財産もマイナス財産も、何も相続しない方法です。相続放棄をするとはじめから相続人でなかったこととなり、代襲相続も認められません。マイナスの財産がプラスの財産よりも明らかに多い場合などに有効です。相続放棄は限定承認と異なり、相続人が単独で行うことができます。法定相続人のうち一人が相続放棄をした場合、他の法定相続人はその分を引き継ぐことになります。

限定承認と相続放棄は、相続開始から3ヶ月以内に裁判所で申立て手続きを行います。3ヶ月以内に申立てをしない場合は、自動的に単純承認をしたことになります。

■例えば…■

下記の図のような家族構成で父親が亡くなった場合、法定相続分で相続したとすると、配偶者が半分、子どもが残りの半分を人数で按分します。この場合は配偶者1/2、子どもがそれぞれ1/4になります。

相続発生時(父親が亡くなった時)、父親の遺産は3,000万円の預貯金と、事業資金の借り入れが5,000万円であったとします。相続人全員が単純承認をし、法定相続分で相続した場合は、図の①のように、相続分は母が▲1,000万円、子どもたちが各▲500万円になり、父親の借金を返済する義務を負います。

■相続人の一人が相続放棄をすると…■

相続放棄は、相続発生を知った時から3か月以内に単独で行うことができます。例えば、長女は借金の相続を嫌い相続放棄の手続きをしたとします。そうすると、長女ははじめからいなかったものとみなされ、法定相続分が図の②のように変わります。この場合、長男の相続分が、プラスの財産、マイナスの財産共に2倍になり、長女の相続放棄により、長男の相続財産が大きく影響を受けることになります。

プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合、借金を返済する意思のある相続人以外は、すべて相続放棄の手続きをする必要があります。そして、相続放棄をするときは、他の相続人にもその旨を伝えましょう。それによって影響のある相続人は、自分の意志で相続放棄をするか、単純承認するかを決めることができます。また、相続人が一人でも相続放棄をした場合は、限定承認はできないので注意してください。